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朝、子どもの部屋の前で「今日はどうする?」と声をかけようとして、言葉が出てこなくなったことはないでしょうか。何を言っても傷つけてしまいそうで、黙っていることしかできない——そんな夜を過ごしている保護者の方は、決して少なくありません。文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(令和5年度)では、不登校の児童生徒数は年々増加傾向にあり、2023年度は全国で約34万6,000人にのぼっています。つまり、今まさに同じ悩みを抱えている保護者の方が、全国にたくさんいらっしゃいます。この記事では、声かけの考え方と、日々の接し方のヒントをお伝えします。
まず「声かけが難しい」と感じることは自然なことです
お子さんが不登校になったとき、「何か言わなければ」と思いながらも、どんな言葉をかければいいのかわからなくなる保護者の方は多いのではないでしょうか。「早く学校に行ってほしい」という気持ちと、「無理させたくない」という気持ちが同時に湧いてきて、心が揺れてしまうのは、それだけお子さんのことを真剣に考えているからです。
まず知っておいていただきたいのは、「何も言えなかった日があっても、それは失敗ではない」ということです。黙って隣にいてくれる存在があるだけで、子どもにとっては大きな安心感になることがあります。
文部科学省が作成した「生徒指導提要」(2022年改訂版)では、不登校への対応として、子どもの感情や状態を「まず受け止めること」の重要性が示されています。解決策を急ぐ前に、子どもが「自分のことを否定されていない」と感じられる環境をつくることが、回復への土台になるという考え方です。声かけに正解はありませんが、「否定しないこと」は一つの大切な軸になります。
「なぜ行けないの」「みんな行っているのに」という言葉は、責めるつもりがなくても、子どもの心を閉じさせてしまうことがあります。一方で「つらいね」「ゆっくりでいいよ」といった一言は、たとえ返事がなくても、静かに届いていることがあります。
「何か言わなければ」よりも「一緒にいる」を大切に
不登校の初期、多くのお子さんは言葉にできない疲れや混乱の中にいます。保護者の方としては沈黙が不安になることもあるかと思いますが、「話しかけなければならない」というプレッシャーを一度手放してみることも、一つの選択肢かもしれません。
たとえば、一緒にご飯を食べながら「おいしいね」と声をかけるだけでも、子どもにとっては「拒絶されていない」という安心感につながります。テレビを一緒に見て笑う、好きな食べ物を用意する——そういった日常の小さな積み重ねが、子どもの心を少しずつ温めていきます。
こども家庭庁は、子どもの福祉と健康向上のために「子どもの視点に立って意見を聴く」という姿勢を基本に置いています。これは保護者の方の接し方にも通じる考え方ではないでしょうか。お子さんが何かを話してくれたとき、すぐにアドバイスや解決策を出すのではなく、「そうだったんだね」「それはつらかったね」とまず受け止めることが、信頼関係を育てます。
保護者の方がすべてを一人で抱えようとする必要はありません。「うまく声かけできなかった」「また傷つけてしまったかもしれない」と感じる日があっても、それだけ真剣に向き合っている証拠です。あなたの愛情は、きっとお子さんに伝わっています。
「登校を促す言葉」を控えることの意味
「今日は行けそう?」「少しだけでも行ってみたら?」——この言葉を毎朝かけ続けることで、かえってお子さんが追い詰められてしまうことがあります。登校を促す声かけが必ずしも悪いわけではありませんが、子どもの状態によっては「またプレッシャーをかけられた」と感じてしまうこともあります。
文部科学省の「生徒指導提要」(2022年改訂版)では、不登校の子どもへの対応として「学校復帰だけをゴールとしない」という考え方が明記されています。学校に行くことだけが回復ではなく、社会的なつながりを保ちながら、子どもが自分のペースで力を取り戻していくことを支援する視点が重要とされています。
保護者の方にとって、「登校しなくていい」と割り切ることは、簡単ではないかもしれません。「このまま何もしなくていいの?」と不安になるのも、当然の感情です。ただ、今のお子さんに必要なのは、登校の促しよりも「あなたのことを信じている」というメッセージかもしれません。
もし声かけに迷ったときは、「学校のことは今日は置いておいて、ご飯は食べられそう?」のように、学校とは切り離した会話から始めてみることも一つの方法です。日常の小さな会話が積み重なることで、お子さんが少しずつ言葉を取り戻していくことがあります。
保護者自身が「支えられること」も大切です
お子さんのことを心配するあまり、保護者の方自身が疲れ果ててしまっているケースも少なくありません。「自分の育て方が悪かったのでは」「もっと早く気づいてあげれば良かった」——そう自分を責めてしまう気持ちは、多くの保護者の方が感じていることです。その気持ちは否定できるものではなく、それだけ深くお子さんを愛しているということでもあります。
ただ、保護者の方が心身ともに消耗した状態では、お子さんの支えになることが難しくなってしまいます。あなた自身が誰かに話を聞いてもらうことも、お子さんへのサポートにつながります。
こども家庭庁では、子どもと家庭を支えるための相談窓口の整備を進めており、公式サイト(https://www.cfa.go.jp/)から相談先を確認することができます。また、文部科学省の生徒指導サイト(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/)でも、不登校に関する相談や教育支援センターの情報を調べることができます。一人で抱え込まず、頼れる窓口を探してみてください。
同じ立場の保護者の方と話せるコミュニティや保護者会も、孤独感を和らげる一助になります。「自分だけではない」と感じられる場所があることが、長い道のりを歩き続けるための力になることがあります。
まとめ
不登校のお子さんへの声かけに正解はありませんが、「まず受け止める」「日常の会話を大切にする」「登校だけをゴールにしない」という考え方は、多くの場面で支えになります。文部科学省の「生徒指導提要」(2022年改訂版)でも、子どもの感情を受け止めることの重要性が示されています。声かけがうまくいかない日があっても、どうか自分を責めすぎないでください。毎日お子さんのそばで悩んでいること自体が、すでに大きな愛情の表れです。焦らなくて大丈夫です。お子さんのペースを信じながら、保護者の方自身も誰かに頼りながら、一緒に歩んでいきましょう。
参考情報・文部科学省「生徒指導提要(令和4年改訂版)」:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/
・文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(令和5年度)」:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/(文部科学省生徒指導ページより確認できます)
・こども家庭庁 公式サイト:https://www.cfa.go.jp/
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